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—— M.E.0265 5月10日 10:20 ——
【火星外縁軌道】



「はい…はい。更新されたルートデータを受信しました。あとはいつもと同じカレン君にご報告ください。ご協力感謝致します。」

天体調査船「ゴーファー」の船長室にて、船長帽を頭に載せてる老人は机の前にしゃんとしていて、スクリーンに映ってる中年男性と通話している。その男は40代に見えて、穏やかな雰囲気を漂わせる。彼の手元の電子端末を机の上に置き、平穏な口調で口を開いた。

「他に質問がありますのでしょうか?」

「はい。実はつい先日、ダイモース群付近の廃墟帯を通した時、こういうものを見つかりまして、なにかの役に立つと思いまして。詳細はこちらをご覧ください。」

「これは…」

スクリーンの向こうの中年は一瞬表情を変化したんだが、すぐいつもの雰囲気に戻った。

「前停泊した座標のあたりで、廃棄された鉱業コロニーの周りで発見した小惑星体です。これをご存知でしょうか。」中年の表情を変化を気付き、船長はそのまま話に続けて発問した。

画像中の他の機材と人員と比べたところ、この小惑星は二三十メートルくらいの長さで、一見ほかのメインベルト上の小惑星と同じものだが。

「いえ、特に心当たりがございません。普通の小惑星体と同じように見えるが。」

中年は戸惑ってるように見えるが、それでも礼儀を崩れず、個性のない返答をなされました。

「実はですね、御社から提供されたセンサーがこの小惑星体に反応しました。中に御社が依頼した目標物質を大量内蔵していると思われます。」

「でもこれは…いえ、続いてください。」

中年は自分の独り言を気付き、立ち戻したんが、それでも船長から見れば、やはり動揺している、「これはあたりだな。」と、彼は心の中で小さく喚いた。

「自分は一介の船員で、こういうものには疎いんですが、御社の要求に従って、該当の物質を見つけた時には規定した手順で収納し、密封して保護していたんですが、この小惑星体に対して、現在我々の探索船においてその内部構造と物質構成をスキャンできる設備がございません。迂闊に手を出したら内蔵の目標物質に損害を与える可能もあるため、御社のご意見を伺いたいと思いますが。」船長は一気に話を進めた故、すこし呼吸を乱れていたが、その目はご褒美を欲しがっている犬のように中年を見つめる。

「少々お待ちください。」中年はマイクを切って隣にいる青年に話をしてて、その話が終わった後再びマイクを繋いだ。

「船長様の要求を理解しました。これは船長様が発見したものですので、もちろん契約通りに対応させて頂きます。この小惑星体で要求に満たす目標物質を見つけた場合、相応の報酬を用意させて頂きます。」

「判定方法は?」

「こちらの納品用の船と専門家と設備があります。現場で確認した場合、タイモースのカジュアルポートは作業に向いてませんので、取り合わせ場所はフォーボスの外囲にある低軌道ドックに変更してください。専門家達が到着後、その場で確認させて頂きます。」

「そうしてくれると助かります。この案件も大分長くなりましたので、船長としてもみんなに追加の報酬を用意しないと、雇い主としても面目ない。よろしくお願い致します。」船長の目は細長くなり、指は机の下で金勘定してるように不自然と動き始めた。

「了解しました。ではこちらの専門家が現場についたらまた連絡させて頂きます。」

「ご理解頂き誠にありがとうございます。」船長は通信を切っても、笑い顔を止められなかった。

「ボーナスって本当ですか?」船長室を掃除しているアシスタントは先の話を聞いて通信を切った途端に船長に話をかけた。

「もちろんだ、せっかく儲けたんだ、多分金散らしても罰は当たらないよ。」船長を肩の力を抜けながら椅子の中に座り込んだ。

「船長にしては珍しいんですね、だが有難く頂きます。」アシスタントは掃除の道具をそのまま部屋の隅において、通信端末でショッピングサイトにアクセスした。

「そう先走るな、金ってのはな、財布に入るまではないのと一緒だ、せいぜい専門家とやらが張ったりじゃないことを祈りたまえ。」

口でいやなことを言いつつ、船長の顔は豚が餌を見たような表情となって、口には電子タバコは、船内の音楽ラジオと合わせて歓喜の煙を吹き出しあがる。




—— M.E.0265 5月11日 11:44 ——
【ゴーファー·休憩室】



ゴーファーの休憩室はこの船の一番の見どころと、船員の皆に称されている、船長個人の趣味により、医務室の正面にあるこの休憩室は、旧世紀の鉱区にあるバーみたいな雰囲気を想起させる。ドリンクと料理を得意とするモルス先生が船医として乗船してから、バーはすっかりと彼の根城になっていた。

まるいテーブルの前に座ているラティは、杯の中のアイスを揺さぶらせて、ひと時の休みを楽しんでる。軽快なラジオの音と、バーの中から湧き出るアドリブの旋律が、暖色光に照らされてるこの空間に人の温度を与えた。

「なかなかの腕前だ、その気があればプロにもなれるんだろう。」演奏が終わった後、ラティは盛大に拍手して称賛の意を表した。

「いえいえ、まだまだですよ。」

「そうだな、演奏の声は純粋で、心に響く。ご自身も演奏みたいに素直になればなおさら殊勝なことだがな。」

ラティの隣に座るディオドンはまた嫌がらせなことを言ったんだが、この程度慣れているかのように、モルスはただ軽く笑ってそう言った。

「みんな隊長さんみたいに素直になれば酒は要らなくなるんでしょう、それもそれで寂しいことだと私は思うね。]

「それってただの臆病だろう。酒もこんなことに頼まれて困るでしょうに。」

ディオドンは席から身を置き、空けた杯を拾ってバー台に歩く、隣にぼーとしてるミュアを気付き、声をかけた。

「どうした少年、ジュースがまずいのか?」

「酒よりうまい。」ミュアは顔をこっちに向かず、顎までバー台に着いた、「本当、みんななんでこんなまずいものを飲むんだろう。」

「楽しい時に飲んだらもっと楽しくなるよ、気分が。」モルスがその投げた質問に答えながら、焼きたてのタルトを持ち出す。

「まあ、辛い時ももっと辛くなるんけどな。なんで急に酒の話をして、酒飲みたいのか?」ディオドンはそのままタルトを口に送った。

「あ、いや、前ブロックでこっそり飲んだことあるんだ、その時まずいんだなと思って。」ミュアもディオドンの真似をしようと思ったが、焼きたてのタルトはすごく熱くて、すっかりやけどしてしまった。

「あっちい。」先までぼんやりしていたミュアが、急に頭をあげてしまって、喉まで焼かれてるようで、頭から汗が垂れ流す。

「ぷー。」

「な…なによ。」まだ完全に喉を通れてようで、かなり苦しそうにしているミュアだが、周りの大人がその様子を見て盛大に笑い出した。

「いやすまん、子供の舌なら確かに熱いと思うだろう。」

「子供とか関係ないだろう、60度くらいのものを喉に通るなら当たり前だ。」

「へえ、かなり知ってるね。じゃあなぜ食べたの?」

「いや…その、ただ隊長がそのまま食べたから焼きたてのものじゃないと思っただけ。」

「それはいい教訓だ。酒も飲んでみないか?大人の男性さん。」ディオドン隊長はニヤニヤ笑いながら杯をミュアのところに押した。

「まずいから断る。」

「気分は良くなったかい?タルトはまだ一杯あるよ、すこし冷えてから食べないと胃袋に風穴が開くよ。」モルスはファンをこっちに持ってきてタルトに向けて風を吹かせる。

「先生は人柄もいいし、演奏も上手だが、こういうどころのセンスがいまいちだよな。まあ、甘い物を食べると気分が良くなるのが事実だ、酒よりよっぽどいいんじゃない?」

「まあ、大人が酒を飲むのは、抱え込む感情が多いからだ、それらに穴を空けて外に流すために酒を飲むんだ、感情豊かな人が特にそうだ、なあ、ディオドン。」

「俺はいつも素直だから内側には収まらないよ。ただ酒が好きなだけさあ。」

「ミュア兄は確かに発散する必要があるよね。最近ゲームもやってないし、らしくもない。」ソファーに居座ってるブランシェも松葉杖で身を支えて立ってきた。「ほら、この通り。じき治るから、気にしないでよ。このまま落ち込むとこっちまでへこんちょう。」

「別にアンタを見えて落ち込んでるわけじゃないって、そうだな、ディオドン隊長がモビルスーツの操縦方法を教えてくれないのが理由かな。」

「教えるわけねえだろう、俺をムショウに送り込むつもりか。」

「はいはい、心配して損した。」ブランシェは杖を側に置き、ソファーに戻ってまたおやつを食べ始める。

昔なら、喜んでおやつ食べてるブランシェを見ると、何かと癒されるミュアなんだが、目の前の石膏と杖を見て、例の事件はいやでも彼の頭の中に浮かんでしまう。

室内のインテリアから割り出されたような自動ドアがゆっくりと開けて行き、黒髪の少女がパイロットスーツを半分抜けて、汗を拭きながらバーに入ってくる。

「姉さん、倉庫の方は?」

「残り数は少ない、あと一回シフトしたら午後で片付ける。」

「流石船長さんだ、抜け目ないな。」褒め言葉のはずだったんだが、ラティさんの顔からしょうがない表情が浮かんでしまった。

ディオドンは一気に酒を飲みつくして話を続く。「野郎はとんだお利口さんだ。港についたら石運びまで頼まれたんだぞ、うちのメンツかかっていなければ誰かこんなポーターじみたことをことをするかってんだ。まったく釣り合いが合わねえ。」

「お疲れ様、お菓子はまだあるけど…最近よく頭痛があるようだが、無理しないてね。」

モルスはバーの前で座るノワールにタルトの皿を差し出すが、ノワールは横にあるミュアのジュースを一気に飲みつくした。

「いいの、喉乾いたからきただけ。もうすぐ昼ご飯だし。」

「あー、ミュア兄、食堂に行くなら私の分も取ってね。」

「別に食べに行くって言ってなかったんだろうが…わかあったよ、いつものでいいだろう。」

「うん、ありがとうね。」

ミュアはバーの椅子から身を下ろし、酒飲んでるディオドンに話をかける。

「隊長、午後は荷運びのこともあるんだろう、これ以上飲んだらモビルスーツ乗れなくなるぞ。」

「うるせえ、俺のメインディッシュは酒とデザートで十分だ、どうせこんな田舎の港じゃ飲酒運転程度で騒ぎにはならねえし、ほっといてくれ。」

「はいはい、お好きにどうぞ。」

ミュアはノワールと一緒にバーの扉に歩き、自分が大事にしてたゲーム機をブランシェが座ってソファーに投げた。「医務室が嫌ならせめてここで大人しくしてろよ。」

「はーい。」

ゴーファーの食堂は毎日11時半から昼ご飯を提供するが、長期旅行と船長のコスト削減の思惑で提供される食べ物の量は全人員の70%になってるため、毎日長い隊列が並ぶことになってる。ラティも二人を追って席から身を起き、食堂に向く。

休憩室内に人が少なくなったことを踏んで、ディオドンは頭をあげてモルスに鋭い視線で向く、先の軽い雰囲気を拭きた顔で、普段よりも真剣の表情になった。それを気づいたモルス先生も、いつもの微笑みにすこし困惑してるそうな顔になった。

「ブランシェ、あとで定時診断があるから、医務室で待ってくれないか。隊長さんと話があってね。」

「私に聞かれたらまずい話?」

「いつもよりしつこいぞ。」

「わかったよ、そっちで待つわ。あんまり待たせないでね。」

ブランシェは片手に松葉杖をついてバーから離れた。

「さて、話とは何だい、なにかあったのかい?」

「数ヶ月前、海賊に襲われた時、お嬢ちゃんが俺のビームサーベルで海賊に一泡吹かせたの覚えてるか。」

「ああ、もちろん。ブランシェを見てるといやでも思い出すからね、それがどうした?」モルスを手元の洗濯作業をやめて、隊長に疑問の視線を向く。

「それだ、どう考えてもおかしい。お前さんには知らないかもしれないけど、俺のビームサーベルってのはユニバーサルインタフェイスで接続には6位の起動パスワードが必要だ。嬢ちゃんがそれを知るわけもない。そしてあの常識外れの動き、工程用のモビルスーツであの子のような動きをするのは無理だ、少なくとも俺にはな。それでだ、前から聞いた話じゃ、孤児院から雇われた子供って話だろう。この界隈で働くになると、どうしても悪い噂が耳に入るんだ。なにか関わりがあるんじゃないかと、最近いつも思ってる。」

「悪い噂?」モルスはその話を聞きながらも、ディオドンの酒の杯を取って、別の杯で蜂蜜入れたお茶を差し出す。

「っあ…余計な…俺は以前火星圏で働いたことがある。その時サバエアクラスタにある特務機関にて、一番若い実戦グループは十歳あたりの子供って話があるんだ。サバエアの連中の手の長さは有名でな。ギガンティアも数年前で二回くらいクーデターやったんだろう、なにか関わりがあるんじゃないかと。」

モルスと子供達が前で暮らしてたギガンティアは、木星軌道上にある大きいなコロニーシップ、元々メインベルトにあるヴェスタクラスタに属するものであった。

約十年前から始め、メインベルトにある各大きいなクラスタにおいて、武装クーデターが起こった。ヴェスタクラスタは九年前で臨時軍政府に押さえられ、約五年前で、溜まった矛盾がある事件により爆発した後、ヴェスタクラスタにある一部の民衆は軍政府と決裂することを決めた。ギガンティアを中心とする農業系コロニーシップにて反対派の勢力が大きく、武装暴動になれば、軍政府にとっても完全に制圧することはできない。

結局、正面衝突を避けた軍政府と反対派が交渉した結果、ギガンティアはクラスタから離れることがになって、民衆に自分の行き先を決めさせる。反対派政府のグラスター住民がギガンティアに集められ、故郷とともに木星圏に行くになった。そこで独立し、木星圏の自治コロニーとして立ち上がった。

ギガンティアとともにメインベルトから離れたのは主に反対派に支持する側と一部明白な政治意向を持たない民衆だが、その中にも現実的な原因でギガンティアに残された人もいる、厄介払いのつもりで犯罪者としてギガンティアに押し付けられた軍人崩れや政治上の敵に葬られてスラムの街に落とされた政治業者とか、多種多様な人生を送ることになる人々なんだが、当然その中にヴェスタグラスター軍政府の機関に属した人間も含まれてる。ディオドンの推測もあながち出鱈目なわけではない。

「ふん…これはこれは、随分と常識超えた推理だね。探偵として働く気にならないか、きっと優秀な探偵になれると思うが。」

「茶化すな。」ディオドンは酔い覚めのドリンクを口にして飲む。「どうも奇妙でな、嬢ちゃんに聞いても覚えてないと涼しい顔で言ったし、嘘とは思わないけど、どうしても気になるんだ。」

「私もよく知ってるわけじゃないんだが、多分隊長が考えてるようなことじゃないと思う。私は五年前でギガンティアにあるWRCの診療所で医者として勤め始めたのは、丁度教会所属の孤児院が子供に全体的な身体検査をし始めた頃でね。その時、脳機能障害を患った(わずらう)子供たちはまだ第一段階の薬物治療を受けたばかりで、意識が回復し始めたころだからよく覚えてる。当時一番小さい子はまだ五歳だった。」

「当時ファーザーから聞いた話だと、脳損傷を受けたあの子たちと出会ったのは彼が259年でWRC代表としてマーズトロイアンクラスタに寄り道した時だった。同盟は最近の数十年にて何個のトロヤ群の開発に取り掛かったが、今の経済状況を鑑みて、開拓者たちの生活条件を保証するのは不可能だ。名ばかりの開拓者たちが実質上の棄民になるのは時間の問題だった。そこで、二百年前で人々に捨てられた神や救世主みたいな偶像のお出ましさ。」

「宗教…旧世紀の遺産がまた日の下に這い上がってきたってわけか…」

「そもそもWRCの介入自体が事態の深刻さを表しているようなものだ。あの子たちはトロヤ群開発で生まれる被害者の縮図に過ぎない。WRCも詰まる所民間団体の一つでしかないし、同盟そのものの問題を解決するほどの力を持ち合わせていない。」

「先脳損傷って言ったな、あれはどういうことだ。記憶喪失って聞いたが、なんか記憶を失った子はみんな孤児院の前の記憶がないって、嬢ちゃんも坊主も同じくこと言ってた。」

「あれは…あの子達は…予備商品だからだ。」

「予備商品?」ディオドンは確認のようにこの言葉を読み上げ、そしてそれで理解した。

「ひどい話だ。」モルスの表情が詰まった、元々美の女神に愛されてる青年だが、その顔が大理石の石像のように、すこし微笑みながらも、内側の感情は外に漏らさないように固まってしまった。

「貧乏人の親は自分が産んだ子供を人身売買の業者に売っぱらった後、業者が子供の情緒の不安定や記憶に基く抵抗行為によって商品としての価値が減少するリスクを回避する為に、段階的に薬物を投与し、記憶の消し込みを行ったのさ。」

ディオドンはタバコをポケットから持ち出して、一本火をつけた。なぜか一服したい気分になった。普段うるさかったモルスだが、今日だけは止めてあげなかった。

「ファーザーは元々あそこで最後の視察をしてギガンティアに戻って退職するつもりだったんだ。だがそこの惨状を見て、なにもせずにはいられなかったんだ。彼は同僚の反対を押し倒して、あの子達を闇市場から連れ出した。この話を聞いてから、私もファーザーと同じように、ついついあの子達から目を離れなくなって、そして気付いたら、実習ですらあの子達に付き合ってきたって落ちさ。」

彼は話すことですこし元の調子を取り戻したのか、ディオドンから見れば多少無理があったものの、やっといつもの表情に戻った。

「悪い、そんな重い話になるとは思わなかった。」

「気にすることはな、疑惑があるのはもっともだ。隊長は正義感を持つ人だから、いずれ聞かれるじゃないかなと、前から思ってた。正直、私もノワールのことはよくわからないんだ。だが、あの子達が絶対に悪い子じゃないことを私は保証する。ビームサーベルの件も、単なる故障という可能性もあるし、あんまり難しく考えない方がいいじゃないかな。」

「正義感…ね。まあ、旧型のビームサーベルだから、ログすら残さなかったんだ。本当に故障しただろう。お茶、美味しかった、また飲ませてくれ。」

「どういたしまして。」

ディオドンが席から離れ、バー台の隣に飾ったデジタルフォトフレームを眺め、指先で木製の額縁を撫でる。

「いい笑顔だ、この故障塗れな世界には勿体ないくらい…」






—— M.E.0265 5月11日 11:56 ——
【ゴーファー·食堂】



ゴーファーの前身である「ナワール」級は強襲上陸艦である為、装甲は惜しみなく付けていたものの、流通したものが別の目的に使われる恐れがあるため、民用艦として出荷前装甲を取り外しなければならない。船体中央にある装甲が外し、その代わりにフレームに嵌まる窓が付けられていた。荷運びにとってこういう構造は多少心持たないが、視界の良さに好評があるため、民用化した「ナワール」級は大抵この空間を食堂エリアとして使っていた。

元々惑星やコロニーの近くに通る時、船員はここで集まって外の景色を楽しむのだが、今のように軌道と速度がリアルタイムで調整する場合やスペースデブリの群れを通る時には、艦内システムは乗員の安全のため、外にある保護板を降ろし、いざって時の衝撃を防げるように設定されている。

「おやおやおや、これはこれは、みんなの憧れのビッグブラザーミュアと人気が一直線に飛び上がる颯爽系美少女クイーンノワールさんではないか、最近よく一緒に行動するようになったんじゃん、やはり心境の変化でも起きたのかね、ここで是非一言お願いします!」

スーツ姿の短髪の少年が食器をもって二人の前で座った。ドラマチックの演出が好きなのか、彼はトウモロコシをマイクのように二人の前に差し出した。

「…」

少年の行動が二人の注意こそ引いたものの、ノワールはただ詰まらなそうにサンドイッチを食べ続ける、そしてミュアはそのまま彼の手にあるトウモロコシを掴んで噛み始める。

「なんだよ乗り悪いな…って噛むのやめろ!」

「ナックル、お前暇か、午後代わってくれへんか。」

「酷いな、親友を相手になんて言い草だ。ってそれは俺が取ってきたんだ、もうよこせってお前。」

「心境が変わった…って、なんのこと?」ノワールは頭を傾いてバカやってる男たちに、先の話へのリアクションをした。

「先週、最終志願の提出があったんだろう?二人とも火星に行くってのを、データの纏め役だから見てしまったんだ。昔はそうじゃなかっただろう。」

ナックルはかばんからスクリーンパッドを持ち出して、自分が整理したテーブルを二人に見せた「ほらここ、ファーザーに提出した最終結果。シニア級の専門育成コースに志願したのは君たち二人含めて六人しかないんだ。」

「て、お前だって同じじゃん、ほら筆頭にお前の名前が書いてる。」

「私は君たちと違って最初からそう決めたからね。サバエアクラスタでは、適齢者はみんな正規大学の試験を受けられるんだ、それをやってみようと思ってさ、専門学校には3年の時間があるしね。」

「外籍だと…合格しづらいって、先生が言ってた。」

ノワールは両手で頬を支えながら、視線からではわかりにくいが、まったくの無関心でもないらしい。

「それは承知の上さ、でもできるだけ挑んでみたいと思う、万が一合格できたら、バイトと学業を両立でやって行くつもりだ。卒業したら正式にファーザーのアシストをやろうと思ってな。こう見えても、ファーザーのことは凄く感謝してるんだぜ。」

ナックルはいつもおしゃべりだが、自分のことを自ら言うことが少ないから、二人とも興味津々に自分を見てると気づき、すこし照れてるように後頭部をかく。

「あのナックルがこんな立派になって、兄さん嬉しいぞ。」

「で、そのビッグブラザーミュア様はどうしていきなり火星に行きたくなったの?元々ノアと一緒に里帰りだったのに。」

「人をマフィアの手下みたいに呼ぶな。」ミュアは小さいな溜息を吐いた、視線を横に逸らす。「俺さ…モビルスーツの操縦を学びに行こうと思って…帰ったらその、コロニーガーディアンに参加したいと思って。」

「それだったらわざわざ火星に行かなくてもいいだろう、大体ギガンティアにだって専門学校ぐらいあるだろう、なんで?」

「ファーザーがさあ、今回はいい専門学校を紹介してくれたじゃないか、彼のコネがあるから料金もそれほど高くないらしい、高等部になると軍用規格のモビルスーツで操縦の課業を学べる。」ミュアにちらっと視線を向けてからまた食器の食べ物に視線を向いた。「とにかく!今後なにをするのか改めて考えただけ、コロニーガーディアンに入るには履歴と実績が大事なんだけどさ、それでもただのお巡りさんより、俺は…」

「みんなを庇える大樹になりたい、だよな。」

優しい男の声がミュアの話の途中に挟んだ。見慣れた姿がホワイトコートを纏ってミュアの隣に歩きよせる。ミュアの照れ臭い表情から見ると、ナックルは話題の匂いを嗅ぎついた。

「やあ先生、こんちゃーっす、大樹ってなに?」

「ミュアから言われなかったかい?当時君たちに名前をつけた時、彼は、大樹のような下にあるすべての生命を支える存在になりたいと、私に頼んてきた。僕は学生時代、地球に旅行で行ったことがある、丁度あの時アメリアにあるレッドウッドの森に寄ってね。20層くらいの建物並みの高さがある巨木が、一本一本すごくでかくて、壮観な景色だった。そこがミュアウッズと呼ばれる自然公園だったから、彼にミュアという名前を付けたんだ。」

「へー、そういうことがあったんだね、弟分としては感服しました。流石我らのビッグブラザー、覚悟が違うね。」

「うるせえ、ブランに昼ご飯連れてくるわ。」

ミュアは残った食べ物を一気に食べ尽くして、頭を下げたまま表情を隠して席から外した。

「やれやれ、君たちのアニキも可愛いところがあるんじゃないか。ところで、申請表の件だが、僕も目を通したんだ。ノワールも、僕に頼れず一人でことを決めて、すっかり立派な大人に成長したんだね。」

「そうそう、ミュアがパイロット志望ってのはまあおかしくなかったけど、あれでもコロニーガーディアンに結構向いてるし。ノアはどうして行きたいんだっけ。」

「ブランシェは火星で傷を直す必要があるから、一人にさせるわけにはいかない、ってことかな。」

「うん。私も早く仕事に勤まりたい。学校に通りながらバイトするのも、その、再生治療の負担を多少減らせるつもりで。」

「そうか、最初と比べて、今のノアはすごく姉ぽいよ。くそ、ブランのことが羨ましくなったぜ。」

ナックルはノワールを揶揄いながらパッドをかばんに収める。

「でも血縁上…私はブランの家族じゃない。」

「本船はすでにスペースデブリの群れを通りました、これからプロダクトモードを解除します。食堂、および生活エリアに滞在する人員は左舷から日光直射をご注意ください。」

艦内ラジオの声が響き渡り、先生は身を起こして隣の窓まで歩き、背伸びした。

ブラインド型の防護壁が外のチェインに連動して少しづつ上に上がり、やがて窓際に姿を消えた。放射線遮蔽ガラスを通した太陽の光は人に暖かいイメージを与え、先生のホワイトコートに黄金の光を輝かせた。食堂にいる乗員もその光に気を取られ、ガードレールの隣に集まって下の色鮮やかで、人の営み(いとなみ)に照らされる惑星を眺めながら騒げ出す。

「それを知って、『姉さん』という呼び方を嫌いになったか?」

先生が微笑んで、火星の大地に魅了されたノワールに問いかける。

「いえ…」彼女はただ、手を差し出して、両手をガラスに載せて、心身ともにその星に吸い込まれるような…

「嫌いじゃない…」




—— M.E.0265 5月11日 15:21 ——
【火星低轨道宙域·フォーボス宙域】



「こちらI1、外層防線区に入る。目標地点まであと10分、各機ファイアコントロール解除。I3、重力波レーダー。」

「I3了解!重力波レーダー起動、スキャン中…おっと、はや。同期完了。」

「I1、確認した。」

「I2確認…ひゅー、流石「ヘラルド」。新型は違うね…こんな代物を手に入れるなんて、レジーナの野郎どもも侮れんな。」

「集中しろ、こいつは立派な違法侵入だ。外層砲台がいつ再起動されてもおかしくない、命を内通者になどかけるな。」

「は!」

「五分だ。五分後に内層の防御システムが再び作動する、気を引き締めてかかれ。I3、そろそろピンポイントだ、予定通りここで脱隊して後方支援に専念しろ。」

「了解!」



I3と呼ばれた青年は機体を動かせ、大型レールキャノンを手にして三機の編隊から離れる。

「再確認、目標地点はAWEのドックA010、確認できるオブジェクトは民用船三隻、小型シャトル六艘、自動砲台六基。情報によると、民用護衛モビルスーツ一機も滞在しているはずだ。目的は「密輸軍用貨物」を回収、および、現場目撃者の適切対処。I3、そっちはどうだ。」

「射撃ポイント確保、この距離での推測着弾時間は1.4秒、チャージ時間1秒。ターゲットの赤い船以外、貨物船二隻、自動砲台二機も射程範囲内。位置を変更しますか?」

青年はコクピット内のスコープを引き出し、息を潜む。

「いや、それでいい。I2はターゲットを制圧後内部で調査しろ。俺はほかの自動砲台を片付いてから合流する。できるだけターゲットを壊すなよ、ボーナスが減るから。」

「チェ、そもそもターゲットは何なのかすら分からないだろう。上も上だ、モビルスーツみたいなものなど、知るもんんか。」

「だからできるだけってつってんたろう。いざって時は現場の判断でなんとかなるだろう。ボスだって好きでやってるんわけじゃないんだ。ヤツにとっては、ヘラルドのファーストショーより大事なことはねえ、ジジの寝言なぞ連れだよ、連れ。それで大事な機体が壊してみろ、モビルスーツ推進剤で灌腸してやるぞ。」

「怖え…ってカシラ、これ通信ログに入ってるんだけど?」

「ログが読まれるのは任務が失敗する時だけだ、その時は俺らはとっくに塵芥だ。」

「こういう任務…危険、じゃないよね。」

始めての宇宙任務で馴染めない機体に乗ることに緊張しているからか、I3と呼ばれる青年はすこし臆病な口調になった。

「手早く済ませるならな。」

「肩抜けよ新入り、初任務はこんなハイスペックな機体でお使いなんてこんなに楽なことはないぜ。いきなり実戦で旧式トロールを使ってみろ、あんなガラクタを使ってPMCの連中とやり合う羽目になったらお前みたいなボンボンは一瞬で粉になっちゃうぞ。」

「I2、もうすぐ内層だ。慣性潜航しながら警戒しろ。」

「はいよ、って前から聞きたいんだけど、なんでカシラの機体がそんなにキラキラしてんだ?目立つじゃないか。」

「この光ってる部分は「G.M.S」と呼ばれてるみたいだ、実戦テストも大半こいつの為らしい。詳しいことはわからんが、なんか動作性能があがるって言ってたな。まあ、モビルスーツで違法侵入してるから、目立つもくそもないけどな。」

「ダセェ、俺はこんなもんはごめんだわ。」

「好きで乗ってるわけじゃない…I3、準備は出来たようだな、あとは俺の指示通り撃つだけだ。行けるな?」

「最善を尽くします。」

「では、90秒後に作戦開始だ。」

I1からの通信画面中に、旧式パイロットスーツを着る中年男性が両指で頸に付けてるプラスチックの恐竜アクセサリーを触れて、そしてその前方に歪めた十字を切る。

「すまんな、どこのどいつかは知らんが、今日で最後だ。汝らの死後の安らぎを祈ろう。ファッキングキリスト様々だ。」

「…WRCでしょうか?それとも本当に宗教とかを。」

「単なる悪趣味だ、ほっておけ。」

「悪趣味…か。」

「接敵準備、カウントダウン60秒、I3狙撃準備。」

青年は通信画面を消してから、目を閉じて一回深呼吸する、そして各パラメータの最終チェックをする。

詳しく目標座標を狙撃システムに入力後、I3はサブスクリーンの隣に付けてる香り袋を触る、ガラスボードに映る微妙に満足してる顔と、先見た作り笑いをする中年の顔が彼の脳内で重なっていく。

「クソが…」




—— M.E.0265 5月11日 15:26 ——
【AWE低軌道港区·A010ドック】



「じゃ私たちもこれで、三ヶ月後また学校で会おう、先生も元気でな。」

ナックルはロビーの入り口ではしゃいでお別れの挨拶をする、モルスも微笑んで手を振って彼らに送り出し、中転ステーションのシャトルに乗るまで見送った。

「ごめんね、一緒に待てもらって。」

「どうせ時間も長いだし、先にベルリに遊びに行くのもありだな。ブランのことが落ち着いたらあと一ヶ月間くらい旅行したいな。」ミュアは荷物箱の上に座ってロビーの天井を見上げる。大空に輝く星々は彼の中の活気を引き出しているようだ。

「そうか、じゃノワールも一緒に行くかい?」

「私は留守、ブランの世話をするつもり。まだ一人じゃまともに歩けないの。」

「ほら、言うと思った。まあいいさ、元々一人でウロウロするつもりだ、大丈夫。」

「一週間くらいなら私も付き合おう。でも、半ヶ月後にギガンティアに戻らなければね、あっちもあっちで色々あるしね。」モルスはシャトルのスケジュールを眺めながらミュアの旅行計画に加わろうとした。

「おい、重い荷物は全部パッキングして港で転運したぞ、お前らも準備しておけ。」

ラティは窓外で出航する貨物船を見送りながらゲートから現れた。モルスは荷物を見張ってる二人を残して、ゴーファーのところに歩く。

「…う…」

ノワールは突然と固まった手で右目を被り、すこし震えながら腰を下ろす。

「どうした?」

「なん…でも…」

彼女が少し手を下ろし、右顔は酷く痙攣していて、その可憐な容貌を歪めた。

「だから無理すんなっていつも言ってるだろう。大人しくブランと一緒に休めばいいものを。わざと手伝って体調壊してまで…」

ミュアの文句は、巨大で不規則な振動に止められた。宇宙港のロビーに滞在している他の人達もその異変を気付き。搭乗口のモルスとラティも足を止め、周りの様子を窺う。

遠い星の海から投げられたオレンジ色の光帯が、人達の目の前でロビーの近くに停泊中の貨物船を貫いて爆発する、その青い光が窓を通してロビーの中にいる人の目に刻まれる。

「なん…」

またでかい音がした、通路内のラティがゴーファーの搭乗口から噴き出される気流に飛ばされた。ゴーファーの中から上あたりの部分が巨大な穴が空きた。人々が逃げ回るようになってから、ロビー内の赤色のアラームがゆっくりと響き渡る。

「本港が正体不明な衝撃を受け、すべてのゲートが300秒内で緊急ロックダウンします。各人員の安全の為、工作員の誘導に従ってシェルターまでの移動をお願い致します。」

ロビー外の防護壁がギロチン台の刃みたいなサラッと落として、映画館の幕引きのように外層の窓を遮った。

「どういうことだ!」

ミュアが周りでパニックになっている人達を見て、流されないように体に力を入れる。隣にいるノワールは頭痛の悪化で倒れた。

「おい、しっかりしろ!」ミュアがしゃがんで汗だらけのノワールの体を支えながら立ち上がった。

「ブランシュのことは私に任せて、君たちは避難を、急いで。」

モルスがゴーファーの中に走り、ラティも身を起こしてその後を追う。

「シェルターってどこだぁまったく、おい、どこに行くんだノア」

頭痛が増していくノワールがミュアの手を振って人群れを逆らえ、ゴーファーの方向に全力で走る。

「おい!」人の流れの末で走ってる船長が、二人を見かけて足を止まらずとも、大声で二人に怒鳴った。「何をしてるんだ君たち、はやく避難を。」

「ブランが、危ない。」振替もせず、ノワールただひたすらに走り、ただ小さい声がその口からこぼれて、その意思をミュアに伝える。

「バカ、先生が任せろって言ったろう!はやくシェルターに…」ミュアがようやくノワールを追いつけて彼女を引き留めようとした。

また激烈な振動が起きて、次にデカい電子音が宇宙港内で鳴り始めた。二人がゴーファーの搭乗口に入った途端に船内のライトが消え、代わりに緊急光源が暗い廊下を照らし出す。

「重力が…消えたのか?」

船内の重力発生装置が工作停止し、廊下の向こう側からモルスが声が伝わってくる。走ってた二人が慣性に載せて中に向かう。

「くそ、ビックともしねえ。」

曲がり角を通したら、二人がラティとモルスと合流した。先に作動した防火壁が衝撃を受けて変形し、細い隙間だけできて、医務室への道を塞いた。緊急作動ボタンを押しても、軌道の変形が酷くて開けることができない。二人はレスキューホークを持って防火壁を開けようとする、頑丈な壁は二人の努力に対してただ嘲笑ってるように見える。

「ダメだ、重力が無ければ力を付けようがない…」

「こっちも完全に塞いでいます…先生、ラティさん!私のことはいいから、みんなはやく避難しに…」

防火壁の後ろの空間が圧縮されたせいか、向こうから聞こえるブランシェの声が重たく、息が薄くなりつつある。だがブランシェの声を確認した以上、ここで諦めるわけにはいかないと、大人組の二人は改めて壁を開けようする。

「格納庫、ジャッキ…取りに行きます!」ノワールは壁を蹴って向こう側の格納庫へ向かう。

「おい、待って。」

また強い風が吹き込んで、廊下のゲートがまた閉じられ、まだ防火壁と闘争している大人組の二人を残した。安全ゲートが閉じるまであと三分しかなかった。

「そうだ、ディオドンは?」ラティは通信機をポケットから引き出して、船内の緊急通信チャンネルで怒鳴る:「ディオドン今どこだ?石運んでる時じゃないぞ。外はどうなってる、聞こえるか?」

「こっちに来るな、敵がいる。」

向こうのディオドンが彼特有の力込めた声でラティの怒鳴りに答えた。

「敵って、お前今どこだ?」

「船内だ!」

数分前、船体が襲撃を受けた時、ディオドンは発射通路から外に小惑星を運んでいた。彼は通路から機体を動き出して周りの様子を見るが、周りの貨物船二隻が次々と撃たれ、彼は爆発風に乗じ、持ち出した小惑星の後ろに隠れて通路内まで引き、ゴーファーの発射口に戻って小惑星を艦内の格納庫に放置した後、通路へのゲートを閉じるように発射口で操作したが、通路内にもう一機の紺青色のモビルスーツが現れ、落下するゲートが完全に閉じる前にゴーファーに乗り込んだ。

「ヘラ…?いや違う…何だこいつは…」

その紺青色のモビルスーツが後ろに搭載してるホークを持ち出して切りかかってくる。ディオドンは仕方なく応戦するが、相手の機体の活動性が速く、彼にビームサーベルを持ち出す隙間すら与えず、ディオドンは機体の腕で相手の腕を防ぎ、攻撃を流したが、機体の出力の差がありすぎて長くは持たないと、ディオドンは内心で舌打をした。



「おいてめえ、どこの部隊だ!ここは民用港だぞ!」

ディオドンはオープンチャンネルで話をかけようとしたが、相手からの返答がなく、ただゲートだけが予定通り、締めかかっていく。

近接戦の攻防が続く、敵からの攻撃は重くで鋭い、ディオドンは回避しながら、機体の背中を艦内の壁で支えて、格闘戦の中で相手の左脛を何度か横から蹴ったものの、格納庫まで押される一方だった。

ラティの通信が来るのはその時だった、ディオドンは格納庫まで身を引き、その小惑星の真正面にまで後退したところだった。相手もディオドンを追い詰めたと思ってるらしく、今まで一番重い一撃をディオドンに叩き込むつもりだったが、ディオドンがヘラの手でその腕を掴んでまた右足で相手の左脛を蹴る。相手は左手でビームライフルを手にしてディオドンの後ろの壁に照準する。

「正気か!」

ディオドンはすぐ相手腕を話してビームライフルを奪おうとするか、その紺青色の機体が素早く後退し、またホークを構える。

双方は石の前で固まったように対峙している。その時ディオドンの後ろにある艦内通路のゲートが開けて、二人の人影がそこから現れて格納庫に入た。

「お前ら…何しに来た!死にたいのか!」

「ブランが医務室に閉じ込められて、ジャッキを探しにきた!」

相手はディオドンの注意力が散らしてるところを見て、また攻撃を仕掛ける。

「そうかよ…」ディオドンが相手の機体の攻撃を躱して、その攻撃の手を左手で掴み、右腕をその斧を落としてから右足で相手の左脛を踏み潰した、相手がバランスを失ったその時に彼は相手の機体を両手で掴み、後ろのカタバルトハンガーに踏んでフィジカルスイッチで発射台を作動させた。

「表出ろ、この野郎!」

ディオドンの拘束はあんまり長く持たなかった、ゲートが開いた瞬間に二機共々強い加速力に押されて船から発射されて、ヘラはその隙にブースターを作動させて相手を船から遠さげようとしたが、相手がその姿勢でアームからヒートダガーを抜けて出してヘラの肩に刺しようとした。ディオドンは辛うじて機体を後ろに避けたが、これで相手も拘束から解放され、そのままビームライフルを抜けて発射する。その分かりやす過ぎた意図にディオドンは思わず機体のヘッドは傾き、このビームを回避しまった。

「しまった!」ディオドンはすぐ気付いた、彼の後ろにあるのは、ゴーファーのゲートだった。

艦内の施設は重力を失い、器材は空中に漂って行方が見えない状況で、ノワールとミュアがジャッキを探していた。その時、高熱源の奔流がゲートを貫通して、格納庫に放置された小惑星に直撃した。

着弾点が眩しい黄色の光が発したと共に、周囲に死と破壊の嵐を齎す。砕けた石が剣と刃となりて、周囲のすべてのものに刺し込む。

暴風の中でノワールのヘルメットがひび割れて、先に気付いたミュアがノワールの手を掴み、彼女を抱きしめながら自分の背中で衝撃を受けた。激熱の気流が破片とともに二人を天井に吹き飛ばした。ミュアが背中の痛みを必死に耐えながら、自分の体を使って、天井にぶつかる時の衝撃を緩和した。

「ふわ…」ミュアの噛まれた唇から、血が流れ出す。あんまりの痛みが彼の意識を奪おうとした。

「ミュア!」ノワールが頭痛に曇られた感覚が、巨大な衝撃によって回復され、彼女は周りの状況を見て、安全の隅を見つかろうとするが、その次の瞬間に、また赤き光る熱流が彼女の瞳に焼き付く。その余波に巻き込まれて、彼女の体は灼熱の地獄に引き寄せられた。

彼女は泣きわめいて、声が尽きるまで叫んだ。やがて喧騒が止み、彼女の精神は静寂の世界へいざなわれた。その魂が体の枠から離れ、自分の体と周囲のすべてが熱の奔流に流され行くのを上から俯瞰する。

「いや…」

彼女は目を閉じた、どこから流れ込む音がしない意思が、彼女の脳内で自分の存在を晒し出す。

【それは、これからの歴史となる】

「私は…死ぬの?」彼女は声が出せなかった、だが、その考えが読まれたのように、その意思が答えた。

【それもまた一つの結末】

「…」

【まだ選べるはず】

「なにを…」

【記憶】

「私の?」

【世界の】

「どういう…意味なの?」

【あなたが選ぶの】

彼女の周囲に廻る光の流れが彼女の額を優しく撫でる。

「これは…?」

ノワールが再び瞼を開けて、右目の痛みは消え、ただ木漏れ日を浴びてるような感触が残された。

空中で漂う血も、痛みで苦しまれ、顔が歪んだだミュアも、お互いに衝突する破片も、ゲートの外で激戦するモビルスーツも、敵がこっちに向いてる銃口も、自分の体さえも、目の前に固まってるように、灰色の時の籠に囚われている。

彼女はつま先で立て、新生児を抱きしめるような動きで、周りに巻き上げる青い粒子の中、静寂に包まれた自分の体に両手を差し出す。

【これもまたひとつ】

少女は粒子の精霊に運ばれ、背後にある光の海に沈んだ。

「行こう。」

格納庫の内で破片と共に舞い散る青い粒子が、光の円環の連続となり、襲ってくる赤色の激流を退き、やがてパルスに圧縮され、船内から宇宙へと発散されて行く。

「ノア…」

時間がまた動き出す、ミュアが粒子の流れに包まれるノワールを見つめて、手を差し出そうとするが、全身からの痛みが激しく、動けなかった。

「おい、もう大丈夫だぞ、防火壁を開けたんだ、もう探さなくて…」

ノーマルスーツに着替えたラティが艦内通路から現れて、格納庫内の人影を見つけようとする。彼は青い粒子を辿って二人の姿を見つけたが、次に彼の視線が、砕けた石の中から現れる巨影に捉われた。

「これは、例の石か?」

「煙が消えて、その中に立っているのは、赤い両目を持つ白い巨人。

「モビルスーツ…なのか?」

二十年の整備経験を持つラティでも、すぐには目の前の光景を理解しなかった。でも彼はすぐに二人の子供を気づき、二人に声をかける。

「おいお前ら大丈夫か?」

四肢と背中に青色の光を噴出してる巨人が、目の前に浮かんでるノワールに自分の両手を差し出す。

ノワールは答えもせず、ラティに振り向くこともなく、ただ右手でミュアをラティの方向にひと押しをして、反動を受けたノワールが巨人の手のひらに引き留められ、巨人は彼女を自分の胸の前に送る。

ラティは傷だらけのミュアを引き受けた直後に、粒子の激流が彼とミュア通路内に送り返す、慣性に身を任せたミュアはもう喋る気力さえ残らず、ただ無意識に閉じていく通路のドアに右手を差し伸べる。

「…」

彼の指を指した方向に、白い巨人が黒髪の少女と相対する、まるで人食いの獣が獲物を睨んでいるようだ。そして、ベタニアのマルタがタラスクを降伏させたように,少女はその金色の右目で巨人の顔を見つめ、巨人にその手を差し伸べる。春の陽射しを想起させる眼差しを浴びて、巨人の胸元にあるハッチがエアバルブの作動音とともに開いた。



地面に座り込んでるラティが目の前の不可解な光景を見て、柔らかい粒子の風が通路内にも吹き込み、格納庫へのドアが閉ざされ、ミュアとラティの視線を遮る。

「ノ…あ…」

ドアが閉じる前のノワールの穏やかな表情が不思議とラティの心の底に安らぎを齎した。ミュアの声がラティの意識を現実に引き戻す。先起きたすべての出来事が彼の理解を遥かに超え、もう開けそうにないドアの前で、彼にできるのはただ傷だらけのミュアを助け出すことしかなかった。

「おい、坊主、しっかりしろ!」

ラティはミュアの意識を呼び戻そうとするが、ミュアの体力は特に限界を向いた。

「まだ…倒れるわけには…」

格納庫の方向に差し出した手が落とし、彼の意識が深淵の底に落ちた。




—— M.E.0265 5月11日 15:37 ——
【火星低軌道·AWEドックエリア】



「I2、目標船体にヒット、爆破と崩壊を見当たらず、依然敵と交戦中。」支援型のヘラルドのコックピット内に、スクリーンを見つめる青年パイロットが焦って自分の観測情報を報告している。

「I2、先走るな!目標を確保できる可能性もある、船にダメージを与えるな、すぐこっちを片付けてそっちに向こう。」

「こっちは命かけなんだぞ。」

「ただの民用型だ、なんとかしろ。」

民用型ヘラがl2を再び抱き込むような動きで押しかかってくる。

「バカの一つ覚えは通じないぜ。」

I2はそのまま民用型ヘラの捨て身の突進を僅かな動きで避けて背後に回してライフルを抜いた。だが民用型ヘラがその態勢で機体を回転させ足のビームサーベルを点火して蹴り付く。I2はなんとかこの一撃を回避したが、ライフルを持つ腕がそのまま切り落とされた。

「くそ、なんだこいつは。」

「この距離だと誤射のリスクが高い!」I3はヘラを狙おうとするが、弾道予測のマークは遠距離で交戦するモビルスーツに追いつかない。

「民用機は引っ込んでろ!」

ヘラからの発展したものとは言え、軍用規格で開発されたヘラルドの関節出力が完全にヘラを上回った。I2はもう一本の腕を駆使して空手のまま近距離にあるヘラのヘッドを掴み、握り潰した。ヘラはまた蹴りかかるが、ヘラルドは足のブースターを使って機体を急上昇させ、目が潰されたヘラにもう一本のライフルを抜いた。

「終わりだ、ヒーロー様よ。」



彼が放つビームが、外すことなくヘラのコックピットを貫くものだったが、目を失ったヘラがただアラームに従って回避したか、機体が後ろに傾けることで、ビームが外れて、機体の大腿を貫通してゴーファーのゲートの方に突っ走る。

その次に、通信チャンネルのノイズがl3のコックピット内に響き渡る。

「なんだ…これは…ターゲットシップのゲートのあたりに光る粒子物質を発見、ビームを消した?」l3がこの不可解の状況を報告している時、スクリーン上に「Signal Lost」の表記が現れた。

「l1、l2、聞こえるか!」スコープでl2を確認できたが、通信が繋がらなかった。

「無線が切れてる、どういうことだ…このままじゃ連携も取りようがない、前に出るのが不本意だが…」

l3は独り言で緊張を解けようして味方と合流する判断をした。支援型ヘラルドが狙撃ポイントから離れ、ブースターを最大出力にして港の方へ向かう。

もう一方、港の方で原因不明のパルスに貫通されたヘラとヘラルドも影響を受け、機体が衝撃を受けた。

「EMP?セーフモードに切り替える。システムに異常がないみたいだな、流石に通信が切られたか。」

l2はヘラの様子を見て、EMPでもう身動きを取れないと確認して、またビームライフルのロックマークをヘラに照準する。

「くだらん結末だったが、まあ善戦とも言えよう。満足して死ね。」

彼はトリガーを引きようとした瞬間に、l2が強い衝撃を受け、左腕がそのまま切り落とされた。

「なんなんだ!いったい!」彼はゲートの方向に機体を向かおうとした、そしたら彼は見えてしまった。スクリーン上に映ったゲートから湧き出る煙の中に赤き両眼が輝き、周りに青い燐火のような粒子の噴流が空間を包まって行く、その光景の前に彼は戦慄した。この距離で近接武器を投げただけでヘラルドの腕を切り落とす程度出力を持つなにかがそこ潜んでいるとすれば…

アラームがI2のコックピット内に響き渡り、I2の弱まった神経に更なる衝撃を与える。両手を失ったヘラルドで勝てそうな相手ではないと彼は無意識の底で理解した。

「こうなったら…」

I2のレッグに付けるグレネードランチャーが動かせた瞬間にI1はその意図を悟り、通信をオンにして怒鳴った。

「よせ!」

通信チャンネルからノイズしか聞こえなかった。同時に目の前の戦場が煙に包まれ、大容量のスモークグレネードが戦闘エリアを煙の世界に誘った。

「あのバカ…」I1に不安がないわけではない、ただこれ以上視界が悪くなると、モビルスーツ戦をまともにやりようがない。彼は高機動型ヘラルドの全ブースターを直線推進に使い、このエリアから脱出しようとしていた。

だが先から、推進音みたいな声が聞こえるような気がする、聞きなれたものではない、もっとこう、娘が見ていたアニメの中に登場するロボットの作動音みたいな音によく似てると、I1は頭の中の隅でそのようなことを考えていた。

ヘラルドがようやく脱出できた時に、彼は後ろからついてきたものを見た、煙から離れたばかりでモヤモヤでよく見えないが、I2のヘラルドの後ろ姿に見える。

「やつ、無事だっ…!」

今度こそよく見えた、I2の機体の正面に、もう一機白い機影がある、I2の機体を片手で掴みながら、も一本の腕に光る刃を構え、こっちに突っ込んてくる。



I2が人質に取られた以上、近接戦で決めるしかないと判断したI1は銃剣を手にして応戦しようとする。その意図を読み取ったように、I2のコックピットの辺から霧雨のような光が輝き、そして、I1の目の前で爆発した。

「ハワード!」

機体エンジンが誘爆された結果、白い機影がその爆風とともにI1の視界から消え、爆風を受けたI1が両腕で衝撃を防ぎ、後ろに吹き飛ばされて行く。

すると、彼もI2と同じような光景を見た。腕が構えてる隙間の中から鬼のような赤い両目と、蒼炎を纏う双剣となった両腕が彼の前に現れ、そしてI1の意識がその瞬間から永遠に途絶えた。

「そんな。」

同伴する二機が三十秒以内で瞬殺されたところを観測したI3が、コックピット内で悲鳴をあげる。先まで高速移動してた白い機影が今はその場に止まり、カメラがようやくその姿を捉えた。

「勝てないよ…こんなバケモノ…一体なんなんだ!」

メインスクリーンに映された白い機体が、彼の方向に頭を向き、まるで数千メートル外で待機してる自分を見つめてるように見える。

「あれは…あの顔は!」

額にあるブレードアンテナ、鋭い両目の印象を与えるメインカメラ、マスクにある二つの放熱溝、そして下に伸びる顎。

まるで永遠とも思われる時間の中で、メインスクリーンに映る白い機体の顔影が、青年の脳内にある言葉を思い浮かばせる。

「ガン……ダム……」






episode 0 - 1



R i s e
起動








人類の夢が破滅してから、179 年 3 月 21 日 17 時間 7 分。

戦神の祭壇で、人の子は再び火を灯す。








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